井戸端people

2023年05月24日

本や文化をもっと身近に届けたい 小さな移動図書館テクトコ 代表 橋本安由美さん

今回の井戸端peopleは、小さな移動図書館テクトコの橋本安由美さん。テクトコは、月1・2回イベント会場やマルシェなどに出向いて小さな図書館を開き、本と出会う場を提供しています。
この移動図書館のアイデアが生まれたきっかけは「長崎市には移動図書館がない」という本好きのメンバーの一言。「本に興味のない人が、本を知るきっかけになったり、文化をもっと身近に感じてもらえる機会になったら」との思いから令和3年に活動をスタートしました。
移動図書館には小説や漫画などジャンルにこだわらず、メンバーおすすめの本を置いているそう。また、子どもが中で本を読めるテントやかわいい飾りつけがあり、思わず立ち寄りたくなるような場所です。ギター演奏やワークショップを行うこともあるそうです。
活動の様子や本に対する想いを語っていただきました。

 

Q.小さな移動図書館をはじめたきっかけ。
きっかけは、子育てと仕事以外に趣味を活かして何かしたいと思って、ながさき若者会議に参加したことでした。私が入った芸術文化班ではミュージカルだったり音楽だったり色々なジャンルが好きな人が集まって、長崎市で何ができるだろうって話し合いをしていたんですね。私はやっぱり大好きな本や漫画のことがやりたいって思って、誰か一緒に漫画を語りませんかって呼びかけたら、今のメンバーの1人に出会ったんです。本を語るのも上手だし、本を紹介するPOPづくりがめちゃくちゃ上手で、この子と何かやりたい!って思って一緒に本を中心に活動することになりました。
その子がある時、「長崎市には移動図書館がない」って言ったんです。アメリカには家の庭先に「ご自由にどうぞ」って自分の本を置いて自前の小さな図書館をつくる人たちがいて、諫早市にはバスの移動図書館があるんだよって聞いて、庭はないしバスは運転できないし…、そうだ、自分の持っている本を色々なところに持っていけばいいんだ!って思いついて。それで生まれたのが小さな移動図書館というアイデアなんです。
今はまだできていないですが、移動図書館なので長崎のチリンチリンアイスのように本をリヤカーで運べたらなって思っていて。例えば、ちんどん屋さんって、見たら「わっ!楽しい!」ってなるじゃないですか。そんなワクワクするような移動図書館にするのが理想で、名前は本をテクテクトコトコ歩いて運ぶイメージで「テクトコ」ってしました。夢がつまってるんです(笑)

Q.活動の様子を教えてください。
──どんな所で移動図書館を開いていますか?
ながさき若者会議の方や知り合いの方から声をかけていただいてイベント会場やマルシェに出向いています。長崎居留地まつりや石橋電停近くにできたネオ観光案内所「HUBs Ishibashi」、この間は矢上の教宗寺のマルシェにも呼んでいただきました。
本を前面に出すよりも、本棚やティピーテントを置いてガーランドで飾って、かわいらしさや楽しさ、何かやってるワクワク感を出して立ち寄りやすくする工夫をするなかで、今のような形になってきましたね。子どもたちって狭い空間が好きじゃないですか。だからティピーテントの中で本を読んでもらえるようにテントの中に本を置いたり、借りられる場所が狭い時はテントはやめて飾りつけだけにしたり、臨機応変にやっています。
本は私ともう1人のメンバーが持ち寄ります。子どもが多いイベントのときは絵本や漫画を、大人が多いイベントの時は小説を多くしたり、年齢層や目的に見合った本を持っていくようにしています。

──メンバーはどんな方たちですか?
今は4人のメンバーでやっています。センスあるPOPをつくって本のあらすじを紹介してくれる人、歌とギターで人を喜ばせることが好きな人、そしてふんわりした雰囲気で周りを和ませてくれる人、みんなステキな特技をもっています。本だけじゃやっぱり立ち寄ってもらいにくいところがあるので、みんなの特技を活かして、ギターの演奏やワークショップを一緒に開いたりもします。これまでレトロな万年筆を使って手紙を書く体験会をやったり、あらすじを読み手が読んでそれにあった本を探す「本かるた」をやったりしました。

 

Q.どんな交流が生まれていますか?
小さなお子さんからご高齢の方まで幅広い年代の方々が興味を持ってくれて、いい活動だねって応援してくださるので、ありがたいなと思います。
長崎居留地まつりに参加した時は台風だったんですよ。テントは飛ぶわ、本は濡れるわで大変でした(笑)。その時に雨宿りがてら女の子とその家族が来られたんです。「絵本をどうぞ」って渡したら、返す時にお父さんに「ありがとうございます。がんばってください」って言われたんですよね。その「がんばってください」がすごく心に沁みて、自分もこの一言を添えられる人間になろうって思いました。
他にも、私が感銘を受けた箇所に付箋をいっぱい貼った『夢をかなえるゾウ』を、大学生が付箋を貼ったところだけを上手に読んでくれて「この本めっちゃ勉強になりますね」って言ってくれたんです。そうやっておすすめする方法もありだなって学ぶ機会にもなりました。
活動を通して、私も色々な本を教えてもらって自分の好みの枠を超えて本を読むようになりました。80代のおばあちゃんが「私、寝る時はいつもそばに本を置いていないと眠れないの」って話してくれたり、テクトコに来られる色々な方の話を聞くなかで、こういう人生もあるんだ!ってその人の物語を聞かせてもらうのもおもしろいですね。

 

Q.本に対する想い。
──もともと本が好きだったのですか?
私は“物語”がずっと好きなんですよね。日常では経験できないワクワクやハラハラ、心が動く感覚が好きで、文字が読めるようになった頃から小説や漫画を気づいたら読んでいました。私は、頭の中でずっと何かを考えているような子どもだったので、本を読んでいる時だけは日常から解放されたような気がしていました。中学生までは本や漫画に夢中だったんですけど、高校、大学では勉強一本にしようと思って部屋から全部本を取り払って勉強に集中していました。だからその間ほとんど本を読んでないんです。社会人になって、ある方からすすめられて『図書館戦争』っていう本を読んで、小説ってこんなにおもしろかったんだ!やっぱり私は活字が好きだ!って気づかされて。それをきっかけに一気にまた本を読むようになりましたね。私は小さい頃からまじめに生きなきゃいけないっていう思いが強くて、人と感覚が違うんじゃないかって悩むこともありました。でもまた色々な本を読むようになって、自分はこれでいいんだって受け入れられるようになって心が軽くなりました。本のおかげですね。
誕生日は、自分のメンテナンスの日として仕事もお休みをいただいて朝から晩までひたらすら好きな小説や漫画を読む日にしてるんです(笑)。私にとって本は心の栄養であり本を読むということは心の浄化です。尊敬する作家の喜多川泰さんの言葉でいうと「心のお風呂」ですね。お風呂は体の汚れを落とすけど、心の汚れはどうするんだってなった時に、人生に影響を与えてくれる本を並べた「書斎」で心の汚れを洗い流すことができるって書かれていて、本当にそうだなって思います。

Q.小さな移動図書館の向かう先は?
──今後の目標や夢を教えてください。
コロナ禍は活動が全然できなかったので、まずは継続して活動することを大切にしたいです。コツコツと積みかさねていった結果、何かが成せると思うので。
テクトコは、自分たちだけのイベントよりも何かのイベントの中にちょこっといるようなスタイルがいいんですよね。図書館やコンサートに足を運ぶのはちょっとハードルが高いと思う人にも、たまたま出会って、そこに本があって、音楽が流れているっていう風に、文化を身近に感じてもらえたらと思います。
いつか、「あっ、テクトコだ!今日は何の本があるのかな?」みたいな、チンドン屋さんのように見つけるだけでワクワクするような存在になれたらいいですね。チリンチリンってリヤカーを押して、みんなに本を届けるような。やっぱりそれが夢ですね(笑)。

 

 

≪橋本さんの心の一冊≫
『NARUTO―ナルト』
良いものだからこそ多くの人の心に響くし、人気なんだなって思った作品です。

 

『僕のヒーローアカデミア』
コロナ禍で助けてもらった本。ヒーローの卵たちが試練に立ち向かっていく姿に、私もコロナに負けずがんばろうって。

 

『「手紙屋」 ~僕の就職活動を変えた十通の手紙~』
初めて「自己啓発小説」というジャンルを知るきっかけになった一冊です。主人公の成長に合わせて自分も成長しているような感覚になるのがすごくおもしろくてハマりましたね。この本がターニングポイントになって、色々な本を読むようになりました。

 

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テクトコのホームページ
https://small-library-tekutoko.amebaownd.com/

テクトコのInstagram
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ながさき若者会議
https://www.city.nagasaki.lg.jp/syokai/730000/732000/p035210.html