井戸端people

2023年09月25日

一人ひとりが輝ける“イドコロ”をつくりたい もりきちさん

今回の井戸端p e o p l e は、もりきちさん。アカペラサークル「ハモらんば」代表や小中学生の学習支援教室の運営など、フリーランスで多彩な活動を行っています。

「ハモらんば」では世代も背景もさまざまな35人のサークル員が、アカペラを通じて楽しく交流しながら表現する場をつくっています。また、学習支援教室「Moritto(もりっと)」では、子どもたち一人ひとりにあった自由な学ばせ方で、基礎学習の定着をサポートしています。
もりきちさんの活動の原点は、自分が子どもの頃に周囲になかなか溶け込めずに悩んだ経験。その経験によって、一人ひとりが自分らしくいられる「イドコロづくり」が活動のコンセプトになったそうです。もりきちさんは、「これからも身近な人とじっくり向き合う活動を続けていきたい」と話します。

 

Q.どんな活動をされていますか?
──まず、私も「もりきち」さんと呼ばせてもらっていいですか?
もちろんです(笑)。僕はどんな方ともできる限り近い距離感でお話したいので、名刺も「もりきち」にしてるんですよ。「これは本名?」「これは小さい頃からのあだなで、普段からもりきちと呼ばれていまして」と話すと、それでいっきに距離が縮まります。

 

──活動について教えてください。
フリーランスとして活動を始めて2年目に入ったところです。多世代型アカペラサークル「ハモらんば」の代表として、みんなと一緒にステージに立つこともありますし、そこから広がって、新大工町商店街のふれあい夏祭りや出島夜市など地域のお祭りのMCを務めたり、平成生まれの若者たちが本気で語り合える交流会を企画したり、自分のイベントを主催する機会も増えてきました。
それともうひとつ大事にしている活動が、子どもたちの学習のサポートです。毎週月曜日と火曜日に15人くらいの小中学生を集めて、新大工商店街のPOPUP STUDIO CHAMPで学習支援教室「Moritto」を開いています。
いろいろ活動しているので、時々「何をしてる人ですか?」って聞かれます(笑)。ただ、どの活動も、目の前にいる一人ひとりにとって居心地のいい場所だったり、時間だったり、そういうものが何だろうって考えて始めた活動なんです。一言で言うと「イドコロづくり」。それがすべての活動の根っこにある、僕のライフコンセプトです。

 

Q.「イドコロづくり」がライフコンセプトになるまで
──どうして目の前にいる人たちとの関わりを大事にするようになったのでしょう。
子どもの頃は学級委員を務めるような真面目キャラだったんですが、その一方でうまく周りに溶け込めない自分がいました。小中高とどの時期もいじめを受ける期間があって、ひどい時は落書きをされたり、SNSで勝手なことを書かれたりするようなこともありました。それでも気にしていないふりをして学校に行き続けたんです。そうするうちに卒業する頃には周りともうまく折り合いをつけられるようになっていました。でもやっぱり誰にも頼れない孤独感だとか、さみしさがずっと残って、すごく苦しんだんですよね。そういう経験を通して、同じような思いを抱えている人や目の前にいる一人ひとりと深くじっくり向き合う活動がしたいと思うようになりました。それが「イドコロづくり」です。
居所って「いるところ」って書くじゃないですか。今、その人がいるところが必ずしも居心地のいい場所とは限らないわけで、その人の輝きを引き出せるような場所や時間をつくってあげる行為が、自分は一番好きなんじゃないかなと思うんです。一人ひとりと向き合うことはすごく時間がかかるし、非効率的な活動ではあるんですけど、結果的にそれが自分の将来の仕事につながればいいなと思っています。

 

Q.多世代型アカペラサークル「ハモらんば」について
──アカペラサークルを始めたきっかけは?
僕は「本当に楽しい」とか、「本当にうれしい」っていう感情を出すのがすごく苦手でした。大学でアカペラに出会って、自分が歌っている写真を見た時に、めちゃめちゃ笑ってたんですよ!(笑)。その表情がびっくりするぐらい自分でも見たことがない表情で、本当に出したい感情が表現できていることに気づいたんです。そこで自分が感情表現を助けられたように、アカペラをツールにみんなが楽しく自分を表現できるイドコロをつくりたいと思ってサークルを立ち上げました。

 

──活動の概要を教えてください。
ハモらんばを始めて3年目になります。長崎駅前のマルシェや西北まつりなど、いろいろなイベントの主催者さんから出演のお声がけをいただけるようになりました。ただ、アカペラはあくまでサークル員さんたちが集い交流するツールで、スキルを磨いてプロになろうとか大会で優勝しようとか、そういう目的ではないんですよ。ライフワークとして長く歌い続けて、この場所がみんなのイドコロであり続けることが本来の目的で、「ここってそういう場所だよね」っていう共通認識がサークル内に伝わっているから、自分の居場所を探している人や、音楽を通して交流したい人たちが自然と集まってくるんだと思います。
10代から50代の世代も育ってきた環境もバラバラな35人が集まる場なので、「ここに集まるのが楽しい!」って思ってもらえるように、一人ひとりと連絡をとりあってその人の目線に合わせてお話を聞くようにしたり、毎月一回は必ず交流会を開いて近況を報告しあったりしています。

 

──うれしかった出来事は?
ある主婦のサークル員さんがいて、ステージに立って歌うことがその方の夢でした。そんな場にお知り合いが名前を書いたうちわを持って応援に来てくれたんです。サークル員さんが「ここで歌えて本当によかった!」って感激されているのを見て、僕もそういう場面に立ち会えてよかったと思いました。
ハモらんばというイドコロを通じて、僕はサークル員さんたちの心境や気持ちがよい方向に変わっていくことを応援しています。それで「自分が楽しむことを大事にしてください」っていつも伝えるようにしているんです。失敗しても楽しく堂々と練習の成果を出せたと思えるように歌えたら、それを観るお客さんもきっと楽しいですよ。そうしてサークル員さんたちがステージで輝くことで、自然と観る人たちも明るくなるような、そんな場であってほしいですね。

 

Q.学習支援教室「Moritto」について
──子どもたちの学習のサポートも、大事にされている活動のひとつですね。
自分にとって学生時代で一番影響を受けた場所はやっぱり「学校」だったんです。それで教育に関わる活動にずっと興味がありました。その中で僕の中で芽生えたのが、授業についていけない子どもたちをサポートしたい、という思いでした。学力の違う子どもたちが同じ授業を受ければ差が出てしまうのはあたりまえで、そうした子たちのサポートは学校の中だけでは限界があると思いました。そこで、一人ひとりが自分のペースで学習できる環境を学校の外でつくってあげたいと始めたのが学習支援教室「Moritto」です。

 

──どんな支援をしていますか?
基礎がとにかく大事なので、Morittoでは新しいテキストは使わずに学校の教材だけを使って、学校の宿題を自分のペースで進めてもらい、わからないところがあったら随時質問をしてもらいます。宿題が終わったら僕が一人ひとりのレベルに合わせて準備した問題を解いてもらっています。地域で仕事を学ぶ機会も重要だと思っているので、小学生のクラスでは社会科見学として新大工商店街のパン屋さんを訪ねて、そこで聞いた内容を新聞にしてそのパン屋さんに貼らせてもらったりもしました。

 

──学習をサポートするうえで工夫していることは?
うちの教室の子たちはとにかく元気です!(笑)。10分経てばしゃべりだすし、ずっと座っていられない子が多いし想像以上ににぎやかなんです。普通の先生だったら怒るような状況でも、子どもたちの気持ちが勉強に向かうように考えながら指導しています。例えば、僕もそのしゃべる場の中に入って注意せずに10分くらい思いっきりしゃべらせて、ちょっと話題が尽きたなっていう時に「よし!10分だけ集中しよう」っていう風に切り替えたり、座っていられない子に対しては「立ったままでいいよ」とか「床で解いてもいいよ」って言ってあげたり、そうすると勉強しだすんですよね。それぞれの子どもにはきっと自分のやりやすい勉強の仕方があって、それをなるべく尊重してあげるようにしていますね。

 

Q.活動への想い
──活動していてよかったと思える瞬間は?
ハモらんばでも学習支援教室でも一対一のコミュニケーションを大事にしているので、一緒に活動している人たちが僕のところにいろいろな報告をしに来てくれることがすごくうれしいです。子どもたちは学校であったことや恋愛のことも話してくれるんですよ。それは多分信頼してくれているからで、この人には言えるっていう関係があってこそだと思うんですね。「ハモらんばがきっかけでこんなコラボが生まれました」とか、「学習支援教室に通いだして子どもがいろいろ挑戦するようになりました」とか、そういう声を聞くと、活動していてよかったと思います。

 

──みなさんへのメッセージをお願いします。
ハモらんばでも他の活動でも、「ちょっとやってみたいな」と思ったら気軽に参加してくれたらうれしいです。僕と一緒に何かしなくても、何かきつい時とかつらい時に、僕の活動やSNSを通して、こういう生き方もあるんだなって思ってもらったら、一歩踏み出す勇気が出る人もいるんじゃないかと思います。
地域って人の集まりなので、人が元気になればきっと地域も元気になると思うんですよね。だから身近な人たちを元気にする活動が育っていけば、地域の活性化につながるはずです。そのために僕は、目の前の人たちのために動いて、それぞれの人が活き活きと輝けるような「イドコロ」をたくさんつくっていきたいです。これからもその軸を大事に、活動を続けていきます。

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もりきちさんの情報
ホームページ:https://my.prairie.cards/u/morikichi
Instagram:https://www.instagram.com/morikichi_decchi/

 

 

〈こぼれ話〉──学習支援教室でのディベート「きのこの山 vs. たけのこの里」
中学生のクラスでは、最後の残り30分を使ってしゃべることが好きな子どもの特性を活かしてディベート(討論)をすることもあります。この間は「きのこの山とたけのこの里、どっち派?」っていうテーマでディベートしたんです。これはめちゃめちゃ盛り上がりました!(笑)。実際に食べながら、パッケージに書いてある情報などを見てお互いが意見を交換し合うんです。「内容量はこっちの方が多いのに価格は一緒だからお得なのはこっちじゃない?」みたいな意見がでたりして、客観的データを探して相手を納得させられるようにしゃべるので、自然とディベートの力が磨かれていくんですよね。