2023年07月24日
大好きな長崎の海の環境を守りたい 長崎大学 ながさき海援隊 9代目代表 杉岡拓海さん
今回の井戸端peopleは、長崎大学 ながさき海援隊(以下、海援隊)の代表、杉岡拓海(たくみ)さん。
「海の魅力を満喫しながら、海ごみ問題をはじめとする環境問題の解決を目指す」ことを理念に活動しているボランティア団体です。市内の海岸を中心に清掃を行い、そこで回収したごみの種類や量を調査しています。
多くの海岸に落ちているごみは、日常生活で出されるものが7割近くを占めているそう。そんな海ごみの現状を小学校での出前講座やSNSなどで多くの人に伝えていくことで「環境問題について考える人が一人でも増えたら」と代表の杉岡さんは話します。
清掃後は浜辺で思いっきり遊び、大好きな長崎の海を満喫しながら、楽しく活動しているそうです。
現在3年生の杉岡代表に、1年生の時から長い時間を過ごしてきて、「一番落ち着ける場所」という海援隊の部室でお話を伺いました。
Q.ながさき海援隊について教えてください
海援隊は、結成から今年で9年目になります。水産学部をはじめいろいろな学部の海好きの学生が所属していて、隊員数は現在34名です。こだわっているのは自分だけかもしれないですが、名前が「海援隊」ですし、お互いの結びつきの強さを感じられるので「隊員」と呼びあっています。海援隊には結成時からの活動理念があって、それは海ごみや自然環境問題の解決を目指して活動すること、そして自分たち自身がきれいな海を満喫することです。そのために「減らす活動」「知る活動」「伝える活動」の3本柱を大切にして、日々の活動に取り組んでいます。
Q.具体的にどんな活動をしていますか?
──「減らす活動」
長崎市内の海岸を中心に月1回の自主清掃、そして他の環境保護団体さんや企業の社員さんと合同清掃を行っています。合同清掃は、海の清掃はもちろんですけど、時には川やまちの清掃にも参加させていただいています。
──「知る活動」
自分たちが海岸清掃で拾ったごみが、どんな種類でどこから来たのかを調査するのが知る活動で、ICC調査と生産国調査の2つの調査を行っています。
ICC調査とは、調査方法の名前で、主に長崎市南部の野母崎地区周辺で行っています。ICC調査用紙という世界共通の様式を使って10m四方のエリアの中にあるごみの種類と量を調査するもので、2人1組になって、1人がごみの種類を言い、もう1人が調査用紙に記録しています。
生産国調査とは、ペットボトルごみなどについているバーコードを見て、そのごみがどこから来たのかというのを特定する調査です。実際にここにあるペットボトルでやってみますね。まずバーコードの最初の3桁をチェックします。今回だったら「490」です。バーコードはルールに沿ってつくられているので490を表から探すと、このペットボトルは日本で生産されたことがわかるんです。
──「伝える活動」
小学校からご依頼いただいて出前講座を行っています。出前講座では海援隊の活動紹介をしたり、学校の近くに海岸がある場合は子どもたちと一緒にICC調査をしたりして、海ごみについて考える機会にしてもらっています。
長崎市の環境イベント「ながさきエコライフフェスタ」にも参加させていただいていて、去年は自分たちが海岸で拾ってきた貝殻や漂着ごみを用意して、子どもたちに接着剤でくっつけてもらい、海ごみについて思うことを文字や絵で書き込んでもらう「海ごみアート」をつくりました。これはみんなでミーティングするなかで、小さい子どもでも簡単にできる工作がいいんじゃないかというアイデアから生まれたもので、おかげさまで大好評でした。
この他に、SNSで海岸清掃や出前講座の活動を報告していますので、フォローしていただけたらうれしいです。
Q.長崎の海ごみの現状を教えてください
これまでの調査結果では、日本以外では中国に続いて東南アジアの国々のごみが意外と多いです。長崎県の中でも、有明海などの内湾の海岸に漂着するごみは日本のものが多く、逆に東シナ海に面する外湾になると中国や東南アジアなどの外国からのごみが多いんですよね。
ICC調査で一番目立つのはストローや歯ブラシといったプラスチック、カップ麺の容器や食品トレイといった食品系のごみです。ほとんどの海岸でこうした日常生活で出されるごみが7割近くを占めています。
こうした調査結果は、出前講座や環境関連のイベントで、海援隊の活動紹介と合わせて発表しています。
Q.活動を通じて印象に残っている出来事
大学1年生の時に対馬で行った海岸清掃は衝撃でした。対馬は、リアス式海岸や海流の影響のため日本で一番多くの海ごみが流れつくと言われているんです。対馬の南西方向にある中国や東南アジアの国々からのごみが対馬海流に乗って漂着しているのも大きな要因です。現地で活動なさっている環境保護団体さんと対馬の東西南北の海岸に清掃に行ってみて、地面が隠れるほどのごみを目の当たりにした時は、本当に驚きました。
うれしい出来事もありました。海援隊では長年、長崎市の牧島で清掃活動を行っています。ここも対馬ほどではないですが、長崎市内の海岸の中では断トツで多くの海ごみが漂着していて、毎回20~30袋分くらいのごみのほかに、大きな発泡スチロールがゴロゴロ転がっているような状態でした。ところが、ここ一昨年、去年と、だんだんと行くたびに、海ごみの量が減っているんですよね!自分たちのおかげとは全く思っていないですけど、目に見える形で海ごみが減っているので、やりがいを感じます。
Q.隊員同士の交流について
ちょっとまじめな話ばかりしてしまいましたが、基本は海好きが集まって楽しもうっていう団体なんです(笑)。夏は海岸清掃が終わった後にビーチバレーやフライングキャッチで遊んだり、対馬ではみんなでシーカヤックに挑戦したり、楽しいこととの両立で、メリハリをつけながら充分海を満喫しています(笑)
海援隊では年に1、2回スポーツ大会を開催していて、同学年だけではなく他学年ともつながりを深めています。時々ミーティングが終わった後などに一緒に居酒屋に行って、学校の話とか、恋バナとか、いろいろ話します。海援隊はそういう隊員同士の距離が近いところが好きですね。あと、清掃活動に行ったら必ず海が見られますから。活動中に一回はボーっと海風にあたりながらさざなみの音を聞いて、海を眺める時間をとるんです。そんな時に、自分は海が好きで、海援隊が自分の居場所なんだなって思います。
Q.杉岡さんの海や海援隊に対する想い
──海援隊に入ったきっかけ
出身は福岡県で、実家から海までそんなに近くなかったんですが、小さい頃から宮崎や沖縄の海に連れていってもらううちに、自然と海に惹かれるようになりました。それで水産学部がある長崎大学を選びました。
実は海援隊に入ろうと入学前から決めていたんです。受験の時期に長崎大学のホームページを見ていたら、海援隊について書かれていて、「そういえば、今までボランティア活動をしたことがなかった。海のボランティアはやってみたい!」と思ったんです。1年生の4月から市内の海岸で活動を始めて、すごい量のごみが漂着していることに驚いたり、実際に海ごみを自分の手で触って汚さを実感したり、海援隊に入る前はただ海が好きなだけで海ごみ問題について全く知らなかったですが、活動に取り組んで初めて海ごみ問題の深刻さを知りました。
──代表としての役割
これまで自分から立候補してリーダーをしたことはありませんでした。でも海援隊は自分にとって一番好きな居場所、だから初めて自分から手を挙げてみました。自分以外の副代表もみんな優秀な人たちなので、代表は自分じゃなくてもいいんじゃないかと迷った時期もあったんですが、ある時、当時の代表と副代表の一人が「今の代表には今の代表の良さがある。過去の代表にもそれぞれの良さがあった。だから杉岡には杉岡の良さを活かして代表になってもらいたい」と言ってくれて…、その一言で自分の心が決まりました。あの時の言葉は今でも大切にしています。
自分には、海ごみをなんとかしたいっていう思いは誰にも負けない自信があります。大好きな海がどんどん汚れていくのがいやで、海ごみ問題に対して地球を焦がすほどの熱意を持っているんです(笑) 。海援隊では、その熱すぎるくらいの熱意で積極的に行動して、みんなについてきてもらうのが自分の役割だと思っています。
Q.海援隊からみなさんへのメッセージ
海ごみに対するみなさん一人ひとりの意識が変わることが海ごみ問題の解決につながる一番の近道だと思っています。海援隊だけでなく、他の環境保護団体さんもSNSなどを通じてリアルな海ごみの現状を発信しています。そこで興味を持ってもらったら、ぜひ海岸に行って実際にごみを手に取って感じてもらいたいんです。そして海ごみ問題を解決するために何ができるのかを考えて、それを実行してもらえたらうれしいです。長崎は海との距離が近くてきれいな海岸がたくさんあって、こういう海が次世代にも引き継がれていったらいいなと思います。そんな海の魅力を満喫しに、まずはぜひ足を運んでみてください。
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長崎大学 ながさき海援隊
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やってみゅーでスク
電話:095-819-2870
E-mail : yatemyudesk@ml.nagasaki-u.ac.jp
〈こぼれ話〉──小学校での出前講座の様子
子どもたちにとって海ごみ問題を理解するのは難しいことだと思っているので、小学校で出前講座を行う時は、内容を分けて少しずつ説明しながら子どもたちの目を見てゆっくり話すようにしています。なかなかできないですけど(笑)。真剣に自分たちの話に耳を傾けてくれて、質問の時間にほぼ全員が「はい!はい!」って手をあげてくれた時は、海ごみ問題について興味を持ってもらえたんだなって実感できて、すごくうれしい瞬間です。「海岸に着くごみの量は、動物に例えたら何匹分ですか?」と聞かれたことがあって(笑)。その時は雲仙の海岸清掃の話だったんですけど、ちょっと考えて、アフリカ象に例えて答えてみました。「えー!」って純粋な目をして驚いてくれていましたね(笑)