2024年02月22日
小さなお店が集まると、大きな笑顔の輪ができる Happy market しお彩 工藤恵美さん
今回の井戸端peopleは、生産者が直接販売する“マルシェ”の企画・運営を行う工藤恵美(めぐみ)さん。これまで100回ほどのマルシェを開催した経験を生かし、新たに出店を目指すかたの支援にも力を入れています。
工藤さんが主催する「魚の町公園ランチマーケット」などのマルシェは、子ども連れや高齢者にもゆっくり楽しんでもらいたいと、主に平日に開催。会場にはいつも市内外の生産者によるこだわりの逸品が並んでいます。
かつての市場のように、多くの人が行き交い、笑顔あふれるマルシェにしたいと、訪れるかたや出店するかたとの交流を大切にしている工藤さん。「次、いつあるね?」と楽しみにしてもらえるようなマルシェをこれからも続けていきたいそうです。
Q.マルシェを始めたきっかけ
17年前に、それまで海産物問屋に勤めていた夫と二人で海産物屋を始めました。私たちは店舗を持たないまま起業したんです。今でこそ珍しくないですが、当時は無店舗で独立開業することに、周りのほとんどの人が大反対。私たちもどう説明していいのか当時はわからなかったんですけど、資金もなかったし、場所にしばられず海産物を売ることが、何か自分たちには合っていたみたいです。
それでも最初の頃は販売先を見つけるのに苦労しました。そこで出会ったのが「マルシェ」。ちょうどその頃長崎でもいろいろなマルシェが開催され始めた時期だったんです。ところが、出店を申し込んでも当時は海産物屋だからという理由で断られることが多かったんですよ。スイーツじゃないって言われたり、イメージにあわないって言われたり。やっと出店させてもらえるマルシェが見つかった時はもううれしくて、出店前からワクワクしていたのを覚えています。それから少しずつマルシェに出店できるようになっていきました。
──初めてマルシェを主催した時はどうでしたか?
私たちの海産物屋が10周年を迎えた時に、店舗をもたない私たちが、自分のお店のようなマルシェを開いてみたいと思って、出店者仲間に声をかけて1回だけ私たち主催のマルシェを開催することにしたんです。
10年目の挑戦じゃないですけど、施設利用の申し込みの仕方もわからないし、消防法や食品衛生法に関する知識もなくて、当時はすべてが手探りで、一つひとつ壁を乗り越えていくような感じでした。そのかいあって、当日は予想以上のお客様に来ていただくことができました。よかったってホッとしていたら、お客様や出店者さんたちに「次はいつすると?」って言われたんですね。私は1回限りのつもりだったんですけど、そう言われて、「さあ、いつしよう」って私も夫もその気になってしまって、今に至ります(笑)
──どんなところでマルシェを開いていますか?
10周年記念のマルシェがきっかけで、「ここで開催してみませんか?」ってお声がけをいただくようになって、少しずつ会場や開催頻度を増やして、10~15店舗程の小さいマルシェをこれまでに100回ほど開催してきました。今は、市民会館前の「魚の町公園ランチマーケット」や元船町の「ながさきプラタナスマルシェ」を月1回ずつ主催するほか、長崎ペンギン水族館の「ペンギンマルシェ」、長崎東公園の「ファミリーフェスタ」の運営にも携わっています。
Q.小さなマルシェから生まれる交流のエピソード
──印象に残っている出来事は?
コロナ禍の時に浜町でマルシェを開催させてもらった時のことです。私たちのマルシェを見てお客様たちが「市場のごたるね」とおっしゃったんですよ。私が生まれ育った大浦にも昔市場があって、築町にも築町市場っていうすごくにぎやかな市場があって、八百屋さんが「いらっしゃい、いらっしゃい」って言っているような活気ある市場だったんですよ。自分も親と一緒に市場に行って、そんな雰囲気にふれるのが大好きでした。市場の風景は私の心の中の大切な思い出で、だから今私はマルシェをしているんだって気づかされたような思いでした。そこから、かつての市場のような楽しい会話が飛び交う、温かみのあるマルシェを目指すようになりました。
──平日に開催することが多いそうですね。
イベントは土日に開催されることが多いじゃないですか。それで平日に開くマルシェがあってもいいんじゃないかと思ったんです。平日はあまり混雑しないので、ゆっくり見ていただけます。集客とか売り上げももちろん大事なんですけど、お客様に満足いただいてリピーターとしてまた来てもらうほうが、結果的に長く続けられるのかなって考えて続けています。
平日に開催していると、ベビーカーを押したお母さんが多く来られます。一店舗一店舗ゆっくり見ていかれるんですよね。子育てのために普段なかなか家を出られないお母さんが気分転換に出かけてきてくれたんだなって思って、毎回うれしくなります。年配の方が、ニコニコしながら「これはなんね?」って興味を抱いておしゃれなお菓子を食べたり、レモネードを飲まれたりしている姿を見るのも好きですね。
Q.出店者さんたちとのつながり
マルシェには、市内だけでなく市外からも出店者さんが来てくれます。私たちが実際に食べて「おいしい!」と思ったお店をお誘いすることもありますし、「マルシェに出させてください!」と主催者の私たちのところに売り込みに来られる方もいます。私もマルシェになかなか出られなかった頃は、「このイベントにはどうやったら出られるんですか?」って主催者さんのところに夫婦でよく聞きに行っていたんです。そういう熱意のある方に出店してもらうと、お客様とどんどん仲良くなって、毎回来てくださる出店者さんのファンができていくんです。そんな様子が主催者としても見ていて楽しいです。
──工藤さんのマルシェでは、出店者さん同士の仲のよさを感じました。
1人で出店される方が多いので、回数を重ねる度に、お手洗いに行く時に気軽にサポートを頼めるような、向こう三軒両隣じゃないですけど、そういう関係が自然とできてきましたね。マルシェ当日は、自分の海産物屋の出店もするんですけど、私も夫も他のブースのことが心配でつい見て回るので自分のブースを離れがちなんですね。そんな時は周りの出店者さんがお会計までやってくれたり(笑)。本当に昔のご近所付き合いみたいな感じで助けていただいています。
──マルシェといえば、天候で苦労されることも多いのでは?
天候は、気合いと出店者さんたちとのチームワークで乗り切ります(笑)。先日のマルシェは大雪で、前日のうちに出店者さんには遠慮なくキャンセルしてくださいと伝えていたんです。でも当日、出店者さんたちのほぼ全員が来てくれたんです!それは「お客様が1人でも来ていただける可能性があれば開催したい」っていう主催者の私たちの思いが伝わっていたからなのかなと思います。その日も、雪の中、傘をさしてマルシェのチラシを持ったおばあちゃんが来てくれたんですよ。このお1人のためだけでも開催してよかったと思いました。そういうエピソードの積み重ねが次もがんばろうっていう気持ちにつながります。私も夫も次の日はさすがにダウンしていましたけど(笑)。
Q.マルシェに出店してみたい方の支援もされていますね
長崎市男女共同参画推進センター「アマランス」の主催講座「初心者のための手作りマルシェ出店ストーリー」で6年間講師を務めています。
最初にセンター長さんから「講師をしてくれませんか?」とお願いされた時は、本当に驚きましたよ(笑)。自分に務まるか不安でしたが最終的にお引き受けした理由は、「器じゃないと断るよりも、与えられた器に入ってみよう」という起業した頃からの私なりのポリシーがあったからです。自分に合わないってお断りするのもいいけど、相手があなたに合うよって言ってくださるのなら、それに乗っかってみるのもいいんじゃないですかって、受講者さんにもよくお話しするんです。
講座には、子育てを終えられて何か始めたいとか、趣味でつくったハンドメイド小物を販売してみたいとか、いろいろな方が参加されます。講座の目的は、そういう方たちに、実際にマルシェの出店体験をしてもらうこと。講座の総仕上げとして、受講者さんたち自身による「ひよこマルシェ」を開催しています。最初はどうしたらよいかわからない受講者さんたちも、ひよこマルシェが近づくにつれて真剣さが増してきて、どんどん質問してきてくれるようになるんですね。それはきっと自分で考えて、だんだんやるべきことが明確化されていくからだと思います。
受講者さんたちには、この講座や出店経験を通じて、これからどうしたいかを考えるきっかけにしてもらえばと思っています。最近は、講座を卒業された方たちも増えてきて、マルシェの出店者だけでなく、教室を開いた方もいるし、みなさんそれぞれです。そういういろいろな報告をいただくのもうれしいですね。
Q.マルシェを続けることへの想い
今、長崎市には新しい施設がどんどんできてきて、大きなイベントも行われています。一方で、私が子どもの時に過ごした長崎、市場があっておじいちゃんおばあちゃんがワイワイしゃべりながらゆっくりお買い物を楽しんでいるような、温かさが残るまちでこれからもあってほしいなって思います。
私たちのマルシェでは、出店者さんが野菜をトラックに並べて売ったり、火鉢でおもちを焼きながら売る風景があったりして、年配の方も楽しみにして来てくれます。そこで「昔長崎でもこがん市場あったね」って言いながら年配の方が新しい食べ物にチャレンジしてみたり、昔からあるかんころもちや時津まんじゅうを、若い方がお昼休みに買ってみたり、いろいろな世代が集って、世代間の交流が生まれれば素敵ですね。
目標は長く続けることです。小さなお店が集まって皆さんの笑顔がいつでもあふれているような、皆さんから「次いつあるね?」っていつまでも言ってもらえるような、そんなマルシェが続けられたらいいなと思っています。
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マルシェ運営の相方、夫の洋一さんと
〈こぼれ話〉夫婦漫才とおせっかい
──ずっと夫の洋一さんと二人三脚でマルシェの運営をされてこられたそうですね。
マルシェ直前になると、毎回夫と手分けして会場周辺で1,000枚を目標にチラシのポスティングをやっています。今の時代、SNSだけで集客もできると思うんですけど、SNSをやっていない年配の方がチラシを持って「このお店どこね」って来てくださると、歩いて回った努力が報われたねって毎回2人で喜んでいます。
実は、私が初めてマルシェに出店したいって言った時も、主催をしたいって言った時も夫は大反対でした(笑)。いまでもマルシェ中に私たちはよく夫婦喧嘩をするんですが、周りの方たちには2人で漫才をしているようにしか見えないみたいですね(笑)。それで私たちも「夫婦漫才とおせっかいは無料です!」って言うようになりました(笑)。