井戸端people

2023年12月19日

次世代のため、若手のアイデアを地域活動に 川添達朗さん

今回の井戸端peopleは、地元である琴海地区を中心に北部地区を盛り上げる活動を行う川添達朗さん。
川添さんが積極的に地域で活動するようになったきっかけは、幼い頃から親しんでいた琴海の夏祭りが行われなくなったこと。何とか復活させたいと、仲間を集めて2019年に「琴海手づくり夏まつり」を開催。その後、地域活動団体から悩み事の相談などが来るようになりました。
昨年10月には「三重地区みなと祭り」で子どもたちが主役のステージイベントを企画。コロナ禍で発表の場がなかった子どもたちが、久しぶりの舞台で吹奏楽やダンスなどを披露して元気に会場を盛り上げたそうです。
昨年、琴海村松地区では「村松小学校区まちづくり協議会(以下、協議会※1)」が設立されました。川添さんは協議会の事務局長として、地域の方の『やってみたい!』というアイデアを実現させ、みんなで楽しみたいそう。さらには、活動を見て地域に関わりたいと思う人が増えたらうれしいと話します。

 

Q.仲間たちと地域イベントを“作る側”になるまで
──地域活動をはじめたきっかけは?
私の実家は家業を営んでいるんですが、私自身は県外の大学を卒業して一旦教員になりました。でも、実家に戻って家業を継ぐ人生もありなんじゃないかなという教育実習の頃からの思いに惹かれて、琴海に戻る選択をしました。
戻ってすぐに地元の商工会の青年部に所属して地域イベントに携わるようになりました。琴海地区には中学校が1校しかないので、だいたいみんな同級生、先輩、後輩でつながっているんですよ。そういう同世代の人たちがそれぞれのフィールドで活躍しながら歳を重ねてきたんですけど、10年くらい前から「これまでとちょっと違うことを自分たちでやりたいね」って言い始めたのが地域のまちづくり活動に取り組み始めたきっかけです。
最初は自営業をしている5人とその奥さんの10人くらいで、まちの情報が載っているリーフレットをつくって飲食店などに置いてもらいました。その翌年にはピクニックイベントを開催したんです。琴海は自然が豊かなエリアなので、自然の中にティピーテントっていう円すい型のテントを建てたり手作りのブースを置いたりして、かわいい感じのマルシェを企画したんですよ。当日は大雨だったんですけど、多くの人が来てくれて、手応えを感じました。

 

──転機になったという「琴海手づくり夏まつり」について。
次に何をしようかと話し合っている時に、琴海地区の夏祭りがもう行われなくなることを知りました。それはあまりにさみしいと、仲間たちとそれに代わるお祭りを開催しようと思ったんです。
以前の琴海夏まつりのように花火を上げる予算はない。じゃあ花火に代わるものとして自分たちの力でできることはなんだろうと考えて、仲間に相談して「おもしろい!」って言ってもらえたのが、“竹灯篭(たけどうろう)”で光の演出をみんなでつくることでした。この地区には竹はいっぱいあるし、それを運ぶトラックも持っているからきっと実現できると思ったんです。竹に穴を空けて模様を彫る作業には子どもたちにも参加してもらいました。当日みんなでつくったたくさんの竹灯篭が灯った情景は忘れられません。
このお祭りはたくさんの人に参加してもらっただけでなく、僕にとって転機になりました。それまでは仲間たちと好きなようにイベントを開いていたんですが、「琴海手づくり夏まつり」は、地域のみなさんが長年続けてきた大切な行事を引き継がせていただいて、自分たちで新たな行事をつくるような経験でした。このお祭りを開催するために、地域の人たちにいっぱいお願いもしたし、お祭りが成功したことで逆に頼ってもらえるようにもなって、地域との関係性がより強くなっていきました。

 

Q.「琴海みんなの公社」について教えてください
「琴海手づくり夏まつり」の後、地域からいろいろな相談事が寄せられるようになりました。そのなかの1つが体験ペーロンの運営でした。それまでは琴海地区ペーロン協会が、体験ペーロンの受入・実施団体として修学旅行生や観光客を年間5,000人くらい受け入れていたんです。それが高齢化や人手不足で協会だけでは手がまわらなくなっていたんですね。
労力がかかる体験ペーロンの事業をどうやったら存続できるか、コロナ禍の2年間くらい、ずっと話し合ってきました。それで、受入業務と実施業務を分けてそれぞれ担当しましょうと提案をして、僕は妻とアルバイトのスタッフで「琴海みんなの公社」を立ち上げて、旅行会社とのやりとりなどの受入業務を担うことにしました。昨年は6,000人の修学旅行生や観光客が琴海でペーロンを楽しんでくれました。今、公社では体験ペーロンの受け入れだけでなく、私やスタッフのこれまでの経験を活かして、イベントの企画や地域密着型の動画制作業務も行っています。

 

Q. 子どもが主役!三重地区みなと祭りについて
コロナが落ち着いてきた頃、三重、琴海、外海の商工会が合併して長崎市北部商工会ができ、僕は青年部の部長に選ばれました。ちょうど三重地区で夏まつりを再開しようという声があがっていたんですが、地域としてやりたい気持ちはあるのに、実際に誰が何をやるのか決まらない状況でした。例年、三重地区のお祭りは、地元の水産会社の協賛もあって琴海よりも規模が大きく、漁師町ならではの活気のよさもあって地区外の人も参加しやすいお祭りでした。そこで三重地区だけでなく、琴海地区や外海地区、市北部の人たちが集まる、にぎやかなお祭りがやりたいと思って、青年部で運営させてもらうことにしました。

 

──どんな企画を立てたんですか?
三重、琴海、外海の子どもたちがみんなでやる文化祭のようなステージイベントをつくりたかったんです。学生時代のお祭りの思い出って、何かすごく特別じゃないですか?1年のうちに1日だけ親公認で夜でかけることができて、同級生の浴衣姿を見ていたなとか、そんな甘酸っぱい記憶を思い出して(笑)。だからコロナ禍で3年間何も経験できなかった中高生が、主役になれるようなお祭りにしてあげたかったんです。
事前に子どもたちだけのステージイベントをやりたいんですって企業や自治会を回って理解を求めました。当日は、ステージの司会進行を「子どもアナウンサー」が務め、吹奏楽やバンドなど、高校生までの子どもたちが会場を盛り上げてくれました。
お祭りは準備段階が大事なんですよね。自分たちの力の入れ具合でなんとなく何人ぐらい来てくれるか想像できるんです。そして昨年は2万人の方たちが来場してくれました。自分たちが主役のお祭りを経験した子どもたちが、10年後に僕たちのようにお祭りを担っていてくれたらいいなと思っています。

 

Q.“みんなが町長” まちづくり協議会が始めたこと
──昨年6月に立ち上がった「村松小学校区まちづくり協議会」では、事務局長を務めていますね。
最初に協議会設立の話がでた時に、「協議会の運営は、30代40代の僕たちを中心にやらせてください」って自治会長さんたちにお願いして、自治会長さんたちも「やってみろ」と応援してくれることになりました。協議会設立までは、『みんなが町長』を合言葉に、「わたしが、ぼくが町長だったら?」と、町長になった気持ちで自分たちのまちでやりたいことや課題を考える『みんなが町⾧超超会議』と名付けたワークショップを3回開催して、地域みんなで「まちづくり計画」をつくりあげました。

 

──協議会では、おもしろい写真展の企画が進行中だとか。
今年2024年、村松小学校が150周年を迎えます。「卒業生がみんなランドセルを背負って写真を撮ったらおもしろいんじゃない?」っていうアイデアから、150周年記念企画「わたしたち、卒業生です。」が始まりました。
餅つきなどの地域のイベント会場に撮影ブースをつくって、卒業生を地域のカメラ屋さんに撮ってもらっています。「ランドセルってこがん小っちゃかったっけ?」って、小学校の頃の話で盛り上がったり、卒業生同士で一緒に撮ったり、みんな結構おもしろがって撮らせてくれますね。あるおじいさんは「ランドセルを初めて背負った」って言うんです。おじいさんの頃は風呂敷だったんですね。
目的は、ランドセル写真で地域がつながることなんです。10月の150周年の式典の時に、体育館に写真をずらーっと並べて展示することも計画していて、子どもたちがその式典で写真を見た時、地域の大人たちが村松小学校でこれだけつながっているんだっていう、安心感が生まれると思うんです。写真は今のところ100人ぐらい撮れています。目標は1,000人!達成できるかわからないですけど(笑)。

 

──ランドセル写真のようなユニークなアイデアはどこから?
僕自身はそんなユニークな人間じゃないですよ(笑)。でもやるんだったらやっぱり「おもしろい」とか「楽しい」っていう感覚があったほうが絶対いいじゃないですか。お笑い芸人の大喜利と一緒で「『まちづくり協議会』、どうぞ!」って言われて、どうしたらみんなが喜ぶ顔がみられるかなとか、どうしたらみんなが幸せかなとか、なにかお題を出されている感じですね。ペーロン協会の時もそうでした。相談に来てくれて、最初は正直大変だなと思うんです(笑)。でも頼ってもらえることはうれしいし、誰かがやってきてくれたことなのでそれを任せてもらえるのであれば、がんばっていいものにしようっていう気持ちになりますね。

 

Q.これから、どんなまちづくりを進めていきたいですか?
協議会では、「こんなことをしてみたい!」っていうみんなのアイデアを募集して、それを一緒に実現していきたいです。スポーツイベントをやりたいっていうお父さんとか、アイデアを持っている地域の人は結構いるので、実現するように応援して、少しずつでも自分たちで動いてもらえば、結果的に地域に関わる人が増えてくると思うんです。
今、自治会長さんたちの負担が重かったり、次の役員のなり手がいなかったり、課題も多いです。でも絶対ね、自治会ってあってくれないと困る組織だと僕は思います。地域の自治を一番組織だってできるのはやっぱり自治会なんです。そういう地域の自治活動が次の世代にもずっとつながっていくように、地域の顔になるようなリーダーを世代ごとにいっぱい増やしていきたいですね。

 

※1 『地域コミュニティ連絡協議会』について
長崎市では、自治会をはじめ地域の様々な団体や住民のみなさんが連携し、地域のまちづくりを行う『地域コミュニティ連絡協議会』の設立が進んでいます。
https://www.city.nagasaki.lg.jp/shimin/191000/192000/index.html
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〈こぼれ話〉体験ペーロンの様子について教えてください。
実は、「琴海みんなの公社」を始めるまで、船に乗ったことなかったんですよ(笑)。でも今は人手が足りない時には指導員としてめちゃめちゃ教えています(笑)。
ペーロンってチームでやるんで、やっぱり勝たせたいんですよね。リーダーになるような子を一人決めて、「みんな、この子に櫂(かい)を合わせれば一気に船が進むけん」って、教員をやっていたからかつい熱が入ってしまって。他の指導員が教える船よりも僕が教える船のほうが速いっていうのが、密かな楽しみです(笑)。