井戸端people

2022年08月23日

活動を通じて、人の“生き方”に寄り添いたい。教宗寺僧侶 小岱 海(しょうだい うみ)さん

小岱海さんは、東長崎の教宗寺のお坊さん。地域に育ててもらった恩返しをしたいと、教宗寺をお寺が本来そうであったような地域に親しまれる拠り所とする活動を行う傍ら、DV防止、性教育の普及、不登校支援など幅広い活動をしています。

お坊さんの枠にとらわれない多彩な活動を行う小岱さんですが、そのすべての活動は人の“生き方”に寄り添うことに通じる、と語ります。

 

Q.どうしてお坊さんの道を選ばれたのですか?

私は教宗寺の長女として生まれました。お寺は、もちろんお参りをしたり心を落ち着かせるための宗教施設ですが、私は「みんなの居場所」だと思っていて、昔から地域のコミュニティの中心としての役割があるんです。地域の人たちがお参りに来てお話をしたりお茶を飲んで帰ったり、昔はお見合いの場にもなっていたんですよ。私は、そこで地域の人たちに囲まれて育って、小さい頃からこういう環境って良いな、素敵だなと思っていました。そして大人になってから地域のおじいちゃんおばあちゃんに育ててもらったんだと気づきました。そうしたお世話になっている地域の方に何かお返しをしたいという思いから、お坊さんになることを決めました。

 

Q.お寺を活用した居場所づくり「GOKOU」について教えてください。

コロナ禍で学校が一斉休校になった時に、周りに子どもを預ける場所がなく仕事を休まないといけないと困っている保護者の声を聞きました。私は保育士や幼稚園、小学校教諭の免許を持っていましたし、お寺は平日だったら場所も空いています。そこで、こういう時こそお寺で何かできるんじゃないかと子ども達のために本堂の近くの門徒会館を開放したのが始まりです。

 

また、私が参加している「若者会議」※1のメンバーとの話し合いで、多くの学生が学校と家しか居る場所が無く、「学校に行きたくないなぁ」「家に帰るのが嫌だなぁ」って思っている子は、居場所がなくなりがちだと気づいたんです。そこでメンバーと一緒に「GOKOU」※2を始めました。

 

今GOKOUは主に中高生が利用してくれています。自習やテスト勉強、リモート授業を受けたり、ゆっくり落ち着きたい時に使ってもらっています。利用する際のお願い事を説明して、何かあったときに連絡が取れるように名前と連絡先をいただき、鍵を貸して自由に使ってもらっています。それが学生にとっては信頼されている気持ちになり、良いみたいです。仏さまの前で勉強することを「見守られている感じがする」と言う子もいますよ。みんなには、もう一つ別の居場所として使って欲しいです。

GOKOUで過ごすなかで「私は居場所を作ってもらったから、次は誰かに居場所を作ってあげたい」と言った高校生がいて。その子は、芸術や舞台にすごく関心があって、自ら「長崎にいるアーティストへの居場所づくりをしたい」と、長崎の気になるアーティストにアポイントを取って、「星月夜展」というアートイベントを開催したんです。そういう、自分の居場所を得た学生が、今度は誰かに居場所をつくるという拡がりが生まれたことは、GOKOUをやっていて良かったと思いました。

 

Q.性教育活動について教えてください。

性教育活動に携わり始めたきっかけは、大学生の時、今思えば友達がデートDVにあっていたということがあって、なんで私はこんなことを知らなかったんだろう、知っていたら友達にアドバイスができたかもしれないし、友達を支援団体に繋げられたかもしれない……ってずっとモヤモヤしていたんです。そんな時に、ご縁があってNPO法人「DV防止ながさき」で活動を始め、その後「長崎性教育コミュニティ アスター」※3を設立しました。

DV防止ながさきでは、中学校や高校でデートDVの予防啓発授業の講演をメインにしています。「自分を大切にしようと思いました」とか「自分らしくいて良いんだな」「嫌な事はちゃんと嫌だって伝えられる勇気を持ちたい」って言う意見をいただいて、この活動をやって良かったと思います。

アスターは包括的性教育の普及事業をメインで行っています。日本の学校教育は、子どもができる仕組みについては教えてくれるけど、それ以上を学ぶ機会がないんです。アスターには、性教育を広めたいという思いがある人たちが集まっています。私たちは、一人ではできないこともみんなで意見を出したら各自をサポートでき、活動の幅を広げられるねっていうことで、交流や横の繋がりを持つことを大きな軸に活動しています。最近では、長崎の「生理の貧困」をどうにかしたい!と「『生理の貧困』プロジェクト・ながさき」にも他団体と一緒に取り組んでいます。他にも、講師を招いて講演会を開催したりしています。

 

Q.子どもたちは今、どんなことで悩んでいるのでしょう?

――不登校支援や学校でのデートDVの予防啓発授業、子ども達からSNS相談を受けるなど、若者の悩みを聞く機会が多いそうですね。

学校や親のことなど悩みが時代によって大きく変わることはあまりないですが、今は、SNSやインターネットのことで困っている子が多かったり、「生理痛ってどの位痛かったら病院に行くべきですか?」といった質問や人間関係での相談も多いです。それと、みんな将来のことをよく考えているなと感じていて、進路についても相談に乗っています。

 

――話を聞くときに気を付けていることは?

決めつけないようにしています。悩み自体、私がどうこうして解決する話ではないと思っているんです。「どんな気持ちだったの?」「どういう風に思ったの?」と聞いて、その子の気持ちを整理して、実際にどう動くかはその子に判断してもらっています。こうしないとダメじゃない?ではなく、その子がどう思っているのかを大事にしています。また子どもたちが行動を起こした背景にどんなことがあったのかなと想像して、その子の思いを考えたりするようにもしています。

 

実際に長崎にいても、子どもがSNSで投稿し炎上することもあるんですよね。子どもたちは狭い世界の中にいて、そうしたことでも人生がダメになるかもってすごく恐怖を感じていたりします。そういう時に、大人もいっぱい失敗するし、失敗したからといって人生終わりじゃないよ、大丈夫だよ、助けたいと思っている大人がいるよってことを知ってもらえたら良いなぁって思っています

 

Q.挑戦したいことはありますか?

みんな食堂
コロナ禍で外に出られなかったり、周りとの関係が切れてしまったりということもあると思うので、子ども食堂のように食べることを通して地域の人たちが世代に関わらず繋がれる“みんな食堂”を開きたいです。やっぱりみんなで食卓を囲むって会話も弾んで、すごく明るい気持ちになれますからね。また、地域に根付いて活動している方や地域の課題をよくご存知の方と一緒に活動することで、この地域にどういうことが必要なのか理解したうえで、“みんな食堂”を開けたら良いなと思っています。

 

Q.活動への思いとは?

お経って人の生き方について説いているんですよ。私の中では、どの活動も人の“生き方”に寄り添いたいという思いが一本の軸になっています。性の多様性のようにまだまだ社会の理解が足りないようなことを一人でも理解してくれる人がいれば、きっとその人は、それを大切にして生きていくことができると思うので、そういった人の“生き方”に寄り添うことができれば良いなと思います。

 

私たちの人生って正解がないことの方が多いじゃないですか。上手くいかなかったことも受け止め方が変われば、過去の出来事の意味合いもきっと変わってくると思うんです。どうしたら良いんだろうって自分で考えないといけないことがとても多いと思うので、助けてくれる人が周りにたくさんいるから、自分がやりたいことを大切にして生きていて良いんだよって言うことが伝えられたら良いな、また、何を大切にして生きていきたいか考えるきっかけになったら良いなという思いで活動しています

 

また、同じような思いを持っている方と繋がっていけることも活動の楽しさの1つで、好きなことをしているという感覚で取り組んでいます

 

 

 

※1 若者会議
https://www.city.nagasaki.lg.jp/syokai/730000/732000/p035210.html

※2 GOKOUのお問い合わせ
https://www.instagram.com/gokou.18/

※3 長崎性教育コミュニティアスター
https://lit.link/asterngsk