井戸端people

2024年04月23日

まち歩きで“おもしろい”や“不思議”を発見!  長崎路上観察学会アルキメデス 会長 マルモト イヅミさん

今回の井戸端peopleは、路上観察を楽しむ団体「アルキメデス」の2代目会長マルモトさん。まち歩きを月に1回行って、おもしろい構造物や見過ごされがちな意外なものを探す活動を30年以上続けてきました。
まち歩きでは、「カエルの顔のように見える飲み物専用のごみ箱」「用途が分からない扉」などの発見を参加者同士で共有したり、写真を撮ったりしているそう。昨年は、これまで撮影した500点の写真を展示する「長崎の30年いまむかし」を開催。ユニークな風景写真や、30年前と現在の写真を並べて、変化を見つめるという企画も大好評でした。
マルモトさんは長崎のことを「おもしろい発見が尽きないまち。そんな魅力を、まち歩きを通じて多くの人に知ってもらいたい」と語ります。

 

Q.長崎路上観察学会アルキメデスとは?
アルキメデスという名前の意味は、「歩き目です」で、歩いている目ということですね。キョロキョロまちを観察するというのが会の趣旨です。1980年代の後半ぐらいから、作家で芸術家の赤瀬川原平さんが広めた「路上観察」がブームになって、初代会長の森草一郎さんが、長崎でもやってみようということで、長崎市の「長崎伝習所」の都市夢塾、その中の路上観察班としてまち歩きが始まりました。
そのまち歩きがあまりにもおもしろかったので、路上観察班で本をつくろうということになって、1993年に「歩き目です 長崎おもしろ探偵手帳」を出版しました。この本をきっかけに、「自分たちも路上観察やまち歩きをやりたい」っていう方たちがいっぱいでてきて「長崎路上観察学会アルキメデス」が新しく発足しました。これが今のアルキメデスです。私がアルキメデスを知ったのもこの頃で、そういうまち歩きが好きで1人で楽しんでいたので、同じような仲間がいることを知って、喜んで入りました。

 

──どんなものを観察するんですか?
この本のなかにもたくさんでてくるんですけど、人々が暮らしをよくするために、何か工夫するじゃないですか。植木鉢がないからバケツで代用してみようとか、ここに玄関があったらいいなと思ってつくったけど、やっぱり不便だったなとか…。そうやって人々が工夫に工夫を重ねたあげくにこうなってしまったっていう、状態や様がなにかすごくおもしろかったり芸術的だったり、そういうものを自分たちの目で見つけようという観察法です。ある方の研究によると、全国でいろいろ新しく路上観察が始まっているのですが、いわゆる赤瀬川原平さんの流れでいちばん長い団体が、アルキメデスみたいですね。
発足後は、200人くらいの人が参加する大規模なウォークラリーを毎年開催したり、2006年に開催された日本初のまち歩き博覧会「長崎さるく博’06」に少しだけ関わったりしました。さるく博には、いろいろなまち歩きのコースのなかにアルキメデスという名のコースもあったりして、観光客だけじゃなく、地元の人もこぞって参加して本当に大成功でした。
アルキメデスのウォークラリーが、ほんのちょっとでもさるく博のヒントになって、さるく博によって、「さるく」という言葉やまち歩きが長崎に浸透していったっていう実感があるんです。今でも誇らしく思うところです。

愛・・・

上りたくないけど上ってみたい階段

 

Q.参加者同士の交流
例会と呼んでいる毎月1回のまち歩きが交流の場になっています。珍しい階段を見つけてみんなで「これめっちゃおもしろいね」って言い合ったり写真をとったり、普通の人にとっては、ただ階段を見て喜んでいる、ちょっと変わった集まりに見えるかもしれませんね(笑)。
毎回歩くエリアは決めますが、ルートは思いつきです(笑)。なんとなくゴールを決めていく時もありますけど、当日、だれかの「遠くに見えるあの建物を目指して行こう」とかいう言葉で、コースが決まります(笑)。それと、細い道と太い道があったら、大体みなさん何かありそうな細い道のほうに行きたがります(笑)。

 

──会員はどんな方たちですか?
在籍しているのは20人ぐらいですが、実際に活動しているのは10人弱ですね。いろいろな経歴の方がいるからこそ、私たちのまちの見方もユニークなものになってきたと思います。例会のあとに必ず飲みにいくお酒好きの方もいますし、まち歩き中でも一人だけ別な道に行く人もいます。元々まちを1人で歩くのが好きな人って、多分マイペースなんですよ。それが会になっているっていうこと自体が奇跡なのかなって思います(笑)

 

──アルキメデス流 まち歩きの極意
とにかく、なんでも見ることですね。階段や手すりも見る。マンホールも見る。ずっとキョロキョロしているので忙しいんですよ(笑)。だから歩くペースも遅めです。そうしていると、自分は何を見たらおもしろいと感じるかがわかってくると思うんです。「自分はちょっと雨どいが好きかも」と思ったら、自分の心に従って、雨どいに注目して歩くと楽しいと思いますよ。
会員のなかでも好みはバラバラです。マンホールばっかり撮っている人もいますし、町名表示板に目がない人もいます。私は何でも見るタイプですね。風景のなかに何か違和感を感じると、その違和感はなんだろうと思って、つい見ちゃいます。先日のまち歩きでも、「これはドアのはずだよね、でも壁にも見えるし…」っていうふうに観察していました(笑)
1番のやりがいは、自分が見て「おもしろい!」、「見つけた!」っていう瞬間です。こんなものがあったっていう発見が自分たちの喜びになるんです。今、Instagramが人気ですが、会員の中でまめにそういうのをやっている方は1人か2人。不思議とsnsをやっている会員が少ないんですよ(笑)。みなさん発信することよりも発見することが好きなんですね。

 

Q.写真展「長崎の30年いまむかし」について
──昨年、浜町で3日間に渡って行われた写真展は、1,000人くらい来場者があったそうですね。
昔のものがどんどん壊されて、まちが変わっていくことにさみしさを感じてきました。たまたま去年は「歩き目です 長崎おもしろ探偵手帳」が出版されて30年だったんです。そこでこれを契機に、この本に載っている30年前と今を比べてみようと企画しました。
30年前の写真は、本の版下自体が残ってないので、本からスキャンして、何点かはスライド用のポジ写真が残っていたので、それをデータに落とし込んで用意しました。現在の風景は、5、6人の有志で1年かけて撮ってまわりました。1年かけて撮っても、また行ったら変わっている場所もあって、何回も行ったりもしましたね。なかには探しても見つからない場所もありました。
写真展では、写真を見ながら「ここに何があった」と、指差しながら見る方もいらっしゃって、みなさん懐かしい写真を見たかったんだなって思ってうれしくなりました。逆に市民の方たちからもいろいろな情報をいただいて、私たちも勉強になりました。
コーナーを2つに分けて、今・昔のコーナーのほかに、アルキメデス本来の活動の、おもしろい写真のコーナーも設けたんですけど、そっちに夢中になる方もいらして、しめしめと思いましたね(笑)。
私たちも、たくさん人が来てくれたことにびっくりして、 30年間写真を撮り続けてきたことって、すごいことだったんだなって、自分たちのことを見直しました(笑)

 

Q.長崎のまち歩きの魅力
長崎はまち歩きにすごく適したまちだと思います。森草一郎さんもおっしゃっていましたが、長崎には古いものと新しいものが共存していて、海も坂もあって、いろいろな発見があるまちです。
坂の影響が大きいと思うんですけど、景色が単調にならないんですよね。坂を登るたびに視界が変わるでしょ。坂を登りきった先では素晴らしい景色が一気に開けて喜びもあります。それをどこに行っても味わえるから長崎のまち歩きは飽きないんです。
これまで長崎の路地には重機が入れないために開発されないままの風景が残されてきました。それが今はどんどん変わりつつあります。だから今のうちに、そういう風景を見に行ってほしいと思います。

 

Q.これからの計画
写真展をきっかけに、いろいろなまちづくりやまち歩きグループから一緒にしませんか?とお声がけいただくようになりました。これからは他の団体さんと交流してお互いのよいところを採り入れていきたいですね。
それから自治会活動などで、何か私たちのユニークでちょっと変わった視点がまちおこしのお役に立てればと思っています。長年住んでいると自分のまちのおもしろさに気づかないことって多いじゃないですか。そこで自治会さんに呼んでもらって、一緒にまちのおもしろいところを見つけたり、写真を撮ったりできたらいいなと思っています。

 

Q.みなさんへのメッセージ
とにかく長崎のまち歩きがおもしろいっていう、ただそれだけで30年活動してきたように思います(笑)。 みなさんもまず自分の近所でいいので歩いて回ってみてください。キョロキョロして、何か楽しいものを見つけようと思って歩いてみると、それだけで何か見つかるかもしれませんよ。どうやって見つけていいかわからない方は、一度アルキメデスにトライアルで参加して、気に入ったら会員になっていただけたらうれしいです。

 

──アルキメデスのまち歩きに参加するには?
当日に待ち合わせ場所に来ていただくだけで大丈夫です。基本的に毎月まち歩きの例会をやっていて、トライアルは無料です。会員になると会を存続させるための費用として年会費3,000円をいただいていますが、トライアルは何回やっても大丈夫です。
これからもアルキメデスを続けることで、新しくまち歩きを楽しむ人を増やしていくのが、アルキメデスに課せられた使命なのかなって思っています。冗談交じりで言っているんですけど、目指すは60年展です!(笑)。30年後もまた開催できるように、月1回の例会を継続して、新しい会員を迎えていきたいです。

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長崎路上観察学会アルキメデス
【ホームページ】
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【Facebook】
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〈こぼれ話〉マルモトさんのお気に入りの場所
県外の人と話をしていて気づいたんです。中島川の石橋群は、実はすごく変わっているなって。長崎出身の私はずっと、橋っていうのはあんなふうに並んでかかっていると思っていたんですね。
歴史を紐解いてみると、400年ぐらい前、山沿いにいくつものお寺が最初にできて、そのお寺に行くために、お寺の檀家さんたちが資金を出して橋を競ってかけたそうです。よそのお寺よりすごい橋をかけたいみたいな感じだったんですかね(笑)。わずか20年の間にそれぞれの寺の参道に、橋が10本ぐらいかけられたそうですよ。そういう意地の張り合いみたいなものが400年前にもあったとか思うと、人間って変わらないんだなっていう気づきがあって、お気に入りの場所になりました(笑)。